ホストタウン推進と「食」による町おこし・地域活性化

ホストタウンによる地域活性化シンポジウム「ホストタウン推進と「食」による町おこし・地域活性化」が12月14日に行われた。

2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催まで1000日を切り、全国各地でオリパラを活用した具体的な事業が始まっている。全世界から日本が注目されることは間違いない。日本の素晴らしさ、楽しさを国外にPRする絶好の機会がやってくる。各地区が地域の特色を活かし、魅力を高めていくことが求められている。

その中で注目されているのが「ホストタウン」だ。地域全体で選手団、応援団を受け入れ、地域の特色を活かした「おもてなし」をしていくことが求められている。中にはホストタウンによる財政支援のみを目的に取り組まれているような間違った捉え方をされているところもあるようだが、もう一度制度の目的に立ち返りオリパラを活用した地域活性化に取り組んでいただきたいと感じる。今回のシンポジウムが、1つのきっかけとなり、ホストタウンによる活性化が展開されることが期待される。

海外からお越しになる方の楽しみは、その国の文化に触れることにある。もっとも身近に文化に触れるきっかけは「食」である。食材はその国の気候風土により作り上げられ、食品はその国の文化により生み出されている。例えば寿司を考えてみよう。周りを海に囲まれた島国日本では新鮮な海産物が多く取れる。魚を生で食べる刺身があるのも日本の特徴ではないだろうか。そして米だ。米は言わずと知れた日本の主食である。古くは、年貢としてお金の代わりに税金と同様に納められてきた。その後も品種改良が繰り返され、日本のお米はブランド化した。この歴史や文化、気候風土があったことで「寿司」が生み出されている。江戸時代は現在のファストフードのようなものだったのかもしれない。片手で気軽に食べることができる寿司が江戸で人気となり、全国各地に広がっていった。寿司職人たちがおいしく食べる方法を研究し、それが伝統となり現在に至っている。また、機械技術も融合し「回転ずし」が生まれ、身近な食として私たちを楽しませてくれている。このように身近に当たり前のようにある「食」も日本の歴史、文化、気候風土と併せて考えてみると海外の方に楽しんでいただけるコンテンツとなる。

今回のシンポジウムでは、農林水産省から内閣官房のオリパラ推進本部に出向されている勝野参事官より「食」についてのご講演をいただいた。和食文化が世界遺産登録されたのも彼女の功績によるものだ。「食育」という考え方も彼女の取り組みによるところが多い。勝野参事官からは「JGAP認証」についてのご紹介もいただいた。「食」に対しては「美味しい」だけでなく「安心」も必要となる。食材を生み出すための農作業はとても大変なことである。効率的に農産物を生産するために、栄養を有効に与えるための肥料や雑草等を除去するための農薬なども研究されてきた。こういった研究や取組により農業生産効率は高まってきたが、逆に食に対する安心感が低下したこともある。例えば、遺伝子組み換え食材ということを聞いたことがある方もいるだろう。遺伝子組み換えにより除草剤にも強い食材が生み出されてきた。除草剤は迷惑な雑草を除去するために使われるが、除草剤にも強い食材に対しては効果が無い。
このため、畑一面に除草剤を散布しても遺伝子組み換え食材は育つということになる。効果的に農産物を生産することは素晴らしい考え方であるが、そのために健康被害が出てしまうようでは本末転倒である。勝野参事官からは、オリパラを機会に安全に美味しく日本食を楽しんでいただくことが提言された。それが「JGAP」制度である。食の安全や環境保全に取り組む農場に対して与えられる認証制度であり、生産団体が取得することができる。消費者の立場として、安全に食材が生み出されていることを知ることができるものだ。良い農産物は良い農場から生み出される。農場がJGAPの認証を受けていることで私たちも安心して食を楽しむことができる。この認証制度のお話を聞いて、地域の誇りにつながると感じた。地域活性化は地域の誇りづくりに他ならない。
「ローカルプライド」という言葉がある。地域に誇りがあることが地域を元気にする基本となる。JGAP制度はまさしく誇りづくりになるといえるだらろう。農産物自体の認証制度ではなく、農場に認証をするという考え方が面白い。そこの農場から生み出された農産物は、消費者から支持されるだろう。全国各地に認証をうけた農場が増えることを期待したい。

また、今回は各地区の取り組みを支援する施策として、内閣官房地方創生推進事務局の濱田参事官より地方創生交付金の活用についても紹介された。各地域がローカルプライドを持つためにも先立つものが必要となる。「その場限り」「その場しのぎ」の交付金ではなく、未来につながる先行投資として交付金を利用していただきたい。
地域には様々な資源もあるが様々な課題もある。金太郎飴のようにどこを切っても同じであればローカルプライドにはならない。地域の独自性、地域の特色を生み出すことが求められている。もしかするとそれは、その地域にとっては、当たり前のことなのかもしれない。名産品、特産品として食べられているものは、その地域にとっては当たり前にあるものだろう。
新しく何かを生み出そうとするのではなく、今あるものに光を当てて伸ばしていくことが、ローカルプライドの原点ではないだろうか。そのために、政府で用意した交付金も積極的に活用していただきたい。内閣官房地方創生推進事務局としても、地域の声に寄り添った相談にも応じているそうだ。国と地域が一体となって活性化につなげていくためにも、オリパラがひとつのきっかけになることが期待される。

そして、本シンポジウムでは第2部として「交流会・お国自慢大会」を実施した。参加者が持ち寄った自慢の食材、料理、お酒などを楽しみながらの交流会。ここにはローカルプライドがあった。その土地ならではの食べ物、飲み物は「地域資源」に他ならない。日頃から当たり前として食しているものが、他地域から見るとその地域の文化、歴史が詰め込まれた地域資源であると再認識できた。「食」は地域文化を表現する最高のコンテンツである。これに磨きをかけることで、地域活性化につなげることができる。今回の交流会を通じて改めて感じることができた。
そしてもう一つは「人」である。それぞれの地域には地域を愛する人がいる。情熱をもって地域を元気にしようと頑張る人がいなければ地域活性化にはつながらない。「馬鹿者」と言われても地域の誇りづくりのための汗を流し続けることができる人が必要だ。交流会では、人と人の化学反応が起きていたように感じる。目先の業務や自分の居場所を確保するために取り組むのではなく、「志」をもった取り組みが地域を元気する。

今回のシンポジウムを契機として交流が生まれ、刺激を受けることができた。2020年東京オリンピック・パラリンピックまで1000日を切っている。1964年の東京オリンピックは、戦後ボロボロになった日本の誇りがよみがえったきっかけの一つである。新幹線や首都高速など目に見える整備もされてきたが、もっとも大きな成果は日本の誇りがよみがえったことではないだろうか。2020年には日本の誇りだけでなく各地域の誇りがよみがえるきっかけになることを期待したい。