ホストタウンで地域をつくる ~企業と自治体の連携を通して~

地域活性化学会 第9回研究大会
スポーツ振興部会第15会場
~島根県浜田市~

地域活性化学会第9回研究大会が、島根県浜田市の島根県立大学浜田キャンパスにおいて開催された。スポーツ振興部会では、一般研究として「ホストタウンで地域をつくる~企業と自治体の連携を通して~」のテーマでの発表。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックだけでなく、2019年のラグビーワールドカップ、2021年の関西ワールドマスターズゲームなど近年国内で行われるビッグイベントを地域活性化につなげていくことが期待されている。
東京オリパラのホストタウン制度を中心にして、スポーツを通じた地域活性化に向けた動きは全国各地区ですでに始まっている。しかしながら、その中身は疑問符がついてしまうようなものも少なくない。
行政の財源ねん出のためのホストタウン制度ととらえている地域も少なからずある。このようなことでは本当の意味でのスポーツを通じた国際際交流、地域活性化にはつながらないだろう。

今回のセッションではそういったものとは異なり行政が目的やコンセプトを踏まえたなかで企業との連携によって成果を生み出した取り組みが紹介された。
新潟県三条市。燕三条は金属加工で世界有数の技術力を誇る地域だ。この技術力をスポーツに活用しようという取り組みが始まっている。2018年お隣の韓国で平昌冬季オリンピック・パラリンピックが開催される。
2020年東京オリパラ、2022年の北京冬季オリパラと地球規模で視野を広げてみると、東アジア地域で世界最大のスポーツの祭典が開催されることになる。東京オリンピックばかりに目が向きがちだが、近隣国で開催される冬季オリンピックも日本に及ぼす影響は大きい。この冬季パラリンピックで注目されている競技にアイススレッジホッケーがある。氷上の格闘技とも呼ばれ、その人気は高まりを見せている。
スケートの刃を2本付けた専用の金属製スレッジ(そり)に乗って行われるアイスホッケーだ。このスレッジは、アメリカやカナダで作られたアルミニウム製ものが利用されている。ここに着目したのが、三条市の金属加工の3社。
アルミニウムよりも軽いマグネシウム合金を使ったスレッジの開発に着手。マグネシウム合金は、加工が難しいというということだが卓越した技術力によりミリ単位の調整まで可能としたそうだ。企業の持つ技術力によりスポーツの発展につなげている。「下町ボブスレー」として、大田区の町工場の技術力を使ったボブスレーの開発は有名になったが、三条市でも民間企業の技術力によりスポーツの発展につなげる取り組みが始まっている。スポーツのビッグイベントを契機として、多様な担い手がその特徴を活かすことが期待されている。イベントの成功といった目の前にある目的だけでなく、それぞれの主体が目的を生み出し、それぞれの主体で成果をつかんでいくことがビッグイベントを契機とした活性化と言える。三条市の挑戦が成功し、他地域にも波及することが期待される。


次の発表は、株式会社明治の丸山氏。山形県村山市の取り組みについての民間企業からの発表である。東京オリパラを含めビッグイベントの効果を地域活性化につなげるためには民間の力が必要不可欠である。
民間の盛り上がりがなければ成功したとは言えないだろう。村山市はブルガリア共和国のホストタウンに登録されている。新体操競技のキャンプを受け入れることになっており、すでにナショナルチームのキャンプも行われているそうだ。

きっかけは「バラ」。バラ栽培が盛んな村山市と「バラの谷」として知られているバラの産地のあるブルガリアには共通点が多い。
前述のとおりブルガリアのナショナルチームは村山市でキャンプも行っており、キャンプ期間中には地元中学校の新体操部との合同練習や「ROSECAMP」と冠を付けた公開演技会も開催している。公開演技会は、地域内の高校生以下は無料ということだが、それ以外の方は有料で観覧することとなった。1枚1000円の前売り入場券は完売。世界トップクラスの演技が村山市で行われた。
また、ブルガリアといえば多くの方がイメージするのがヨーグルトではないだろうか。明治ブルガリアヨーグルトは多くの方に認知されている商品である。過去にはブルガリア出身の琴欧洲関のCM起用もあったように、これまでも株式会社明治はブルガリアとの交流を行っている。今回の村山市とブルガリアの交流に対しても明治は様々な取り組みを行っている。乳酸菌の効果を伝えるために「ブルガリアヨーグルトの秘密」といった食文化の紹介による食育活動も積極的に行ったそうだ。
これがきっかけとなって今では学校給食などでもブルガリアの食を体験する取り組みが生まれているそうだ。

三条市と村山市。取り組みの手段は異なるが、両者ともに言えるのは多様な主体が同じ目的に向かって取り組んでいることだ。行政だけでなく民間企業、地域住民、教育現場など多様な主体による取り組みにつながっている。そこにあるのは、「地域の誇り」だと感じた。補助金の獲得や売り上げの増加、教育の向上など1つの取り組みで多くの効果が生まれている。しかし、それぞれの主体者は、自らが期待する効果だけを目的に取り組まれているわけではない。
すべての主体者が「地域に誇りを生み出すこと」をどこかで感じながら取り組まれているように感じた。特に大きな力を発揮するのが民間企業だ。民間企業は、自らの利益のみを追求する組織と位置付けている方も少なくないだろう。企業の存在価値は、社会から必要とされているかどうかということを見失ってはいけない。社会から必要される商品・サービスを提供することが民間企業の存在価値である。その存在価値は、地域ニーズ、社会ニーズに合致したときに大きな成果を生み出す。民間企業も他の組織との連携を必要としているのではないだろうか。

今回の研究大会を通して、地域の様々な主体が共通した目的を持ち、それぞれの主体者が能動的に手段を実行することが地域活性化の道筋ということを再認識した。それぞれの取り組みが共鳴し、地域の誇りづくりにつながってくる。東京オリパラをはじめとするビッグイベントが、そのきっかけになる。間近に迫った2020年東京オリンピック・パラリンピックを通じて、全国各地で「地域の誇りに磨き」が始まることを期待したい。